私は天使なんかじゃない
限界の先
限界。
それを感じることは誰にでもある。
大切なのはその先に到達すること。
メガトン。
ゴブ&ノヴァの店。昼過ぎ。
「ありがとうございました」
ゴブが昼の部最後の客に挨拶をした。
これでしばらくは楽が出来そうだ。
何してるかって?
毎度おなじみの用心棒家業だ。
ベンジーは2階の個室で寝てる。何というか、シルバーと同室で、寝てる。凍ってる間に年代すっ飛ばすこともあるから色恋には攻めだ、らしい。意味は分からんが。
ノヴァ姉さんは手が空いたらしく時にレディ・スコルピオンに接客のレッスン中。
用心棒の用心棒が接客ねぇ。
まあ、いいが。
「時に色っぽい声も必要よ。言ってみて」
「いらっしゃいませ☆アッハーン」
……。
……先は、遠いな。
街は元通りの平穏を取り戻しつつあった。
浄水施設は復旧したし、万が一のバックアップの為のモントゴメリー郊外の貯水池もメガトン共同体が抑え、その近辺の農場にも入植が始まった。所属がアトム教団なのか聖なる光修
道院なのか明確な区分が微妙ではあるけど、ノーヴィスが破壊した門の復旧の目処も立ちつつある。
街は元に戻りつつある。
むしろ発展してる。
もちろん未だ所在不明のアトム教団の生き残りマザー・マヤ、何か暗躍してるジェリコ、そして傭兵集団ストレンジャー。
厄介は確かにある。
確かにあるが、この間までに比べたにかなり収束してきた方だろう。
水絡みも解決したしな。
雑事はまだ色々とあるようだがそのあたりは完全にBOSの手に委ねられた。
俺は用心棒に専念できるってわけだ。
もっとも……。
「兄貴、元気出してくださいよ」
「ああ」
俺は壁に寄りかかりながらカウンター席に座るスプリング・ジャックの言葉に頷いた。
客?
客というか、カウンター席を占領しているスプリング・ジャックとその手下5人……まあ、俺の手下でもあるんだが……こいつらは客というよりは……アドバイザー?
「ところでオーナーさんよ、またネタが出来たんだけど」
「ほう? 今度はどんな?」
スプリング・ジャックの適当になのか真剣に考えた結果なのかは知らないが、こいつの出す料理の案がゴブにはストライクらしい。
出された案の量だけ試作が出来るって寸法だ。
その報酬はキャップ、ではなく無量の飲み食い。どうもこの酒場をスプリング・ジャックたちが気に入った為らしい。
賑やかなのはいいことだ。
お蔭で俺の心も幾分か晴れてる。
「トロイ」
呟く。
誰にも聞こえていないはずだ。
あいつはいない。
ストレンジャーとの戦いから姿を消した。
どこに行ったかは謎。
ただ、ストレンジャーのボマーとかいう奴を追ってた。ストレンジャーのボスらしい。そいつの所在を知るであろう、キャピタル・ウェイストランドを拠点にしているストレンジャーのメンバー
の元に向かった、と見るべきか。場所は知らない。マチェットはトロイにだけ洩らしたからだ。
ED-Eにトロイが戻らないと伝えたのは……まずかったか。
……。
……いや。
正しいよな。
あいつは確かにロボットだが自我(のようなものか?)があるし感情もある。自由意思もあるようだ。
トロイがいなくなった、それを知った時、あいつは外に飛び出した。
そして戻ってこなかった。
多分トロイを探しに行ったんだろうな。
あの時、スレトンジャー戦の時、俺に何が出来たんだろうと今でも考える。
「ふぅ」
何も出来なかっただろうな。
あれが最善なのかは知らないが、俺の限界だったのは確かだ。
スプリング・ジャックたちを分かり易い囮とし、俺とビリーも囮、本命はスプリングベール小学校の地下から聖なる光修道院に向かったベンジーたち。背後から奇襲って寸法だった。
余計なことをとベンジーはあの時トロイに行ったが、まともにぶつかってたら俺たちの誰かは多分死んでる。
ストレンジャーが弱かった?
違う。
あれはトロイが強過ぎただけだ。
何だか知らないが瞬間移動っぽい動きをしてた。
優等生と同じなのか?
時間を操作してたのかもしれないな。
そんな万能な力と同時に剣の腕も立つ。
そうだな、あいつは優等生とグリン・フィスを足したような強さだ。まあ、実際ぶつかったら優等生とグリン・フィスの方が強いかもだが。
「あの野郎、どこに行ったんだよ」
「トロイの兄貴を探した方がいいのか? 俺に任せてくれよ、参謀の俺によ」
「お前の頭脳にはお手上げだぜ」
「へへへ」
純粋にそう思う。
教育等のレベルは知らんが戦略的には良い眼を持ってる。
ストレンジャーの背後を突く案はこいつの案だ。
その時ゴブが声を掛けてくる。
「ブッチ、昼飯の時間だ。今から用意するよ」
「ああ。頼むわ」
カンタベリー・コモンズ。
キャピタル・ウェイストランド全域を回るキャラバン隊の拠点ともいうべき場所。
元々は市長のロエがキャラバン隊を親身に世話したことからキャラバン隊が懐き、交易の街として栄えることになった。
現在メガトン共同体にも属している。
その為、元々いた傭兵たちだけではなく共同体として出資して編成された警備兵も巡回に回って来ていた。
これにより交易路の安全はさらに強化され街の発展は約束されている。
キャラバン隊や兵士、住民が通うのはポーターの店。
黒人の店主が勤める飲食店。
味もさることながら酒は薄めておらず繁昌している。
もっとも、そもそも街には一軒しか飲食店がないからなのだが。
「本当だって、だから気を付けた方がいいぜ」
「確かにな」
ジャンク品を主に扱うクレイジー・ウルフギャングは、医療品の販売を手掛けているDr.ホフに酒を飲みながら警告していた。
警告内容。
それはストレンジャーのこと。
本隊は基本西海岸でしか暴れないが、数年前には本隊がキャピタル・ウェイスランドでも暴れていた。
本隊が去った後はキャピタル支隊は残留しており旅人とキャラバンにとっては脅威だった。
その本隊が現在キャピタル入りしていることは旅をする者たちにとっては災厄として受け止められていた。だから誰もが情報を共有し、それら警戒している。
関わるな。
それがストレンジャーに対しての対策だった。
基本的にメンバーが能力者で占められていることからメガトン共同体も動向を眺める形を取り、警備兵も手出ししないように厳命されている。
「それ、本当?」
店の戸口に異風なコスチュームに身を包んだ女性が立っていた。
その者の名はアンタゴナイザー。
かつてはカンタベリー・コモンズの街の入り口でメカニストと争っていた、ジャイアント・アントを支配していた悪の女王。
ミスティに諭されて今では改心しメカニストともに街の平和を護る存在として子供たちの人気を得ていた。
特定の生物を支配する力であるmasterの能力者。
「よおアンタゴナイザー、何か飲むか?」
黒人のジョー・ポーターは気さくに声を掛けた。
今ではアンタゴナイザーも街の治安を護る存在として認識され、住民たちとの関係も良好だ。
「いらないわ。それよりもウルフギャング、本当なの?」
「何の話だっけ?」
「ストレンジャーよ。奴らの本隊が、キャピタルに?」
「ああ、その話。俺はそう聞いたけど?」
「……そう」
リベットシティ。
戦前の空母の内部に作られた、キャピタル随一の大都市。
議会制を取っている。
……。
……とはいえ、評議会は事実上の壊滅を喫した。
空席となっていた評議長に最も近いとされていたパノンが今回の水絡みの騒動を起こし、その追及を逃れる為に逃亡、傘下にあったとみられるグラートギャングと仲間割れを起こして
ジプシー村でギャングもろともこの世から去った。影響下にあり、FEV入りの水にしていたジャンクヤードも壊滅。パノンは全ての悪事とともに死んだ。
パノンの次席にあり、彼を批判していたシーグレイブは事態を収める力がないことが露呈して失脚。
Dr.マジソン・リーはパノンの従がえていたハークネス似のアンドロイドに銃撃され、一時心肺停止。何とか一命は取り留めたが評議員の籍を返上。
ダンヴァー司令も銃撃され重傷。復帰はしたものの、後に一連の首謀者の一人とされるジェリコの登用が裏目に出て失脚。
評議員はまだ残ってはいたが前述の4人に比べたら穏健派であり消極的であった為、権限をBOSに委譲した。
その為現在はBOSが評議会を指揮している状態だった。
BOSはBOSで政治性はなかったが、少なくとも階級は徹底されていた為、統率の能力はあった。
今のところ大した問題もなく運営は出来ている。
これにより本来噴き出すはずだったリベットシティの下層デッキに押し込められている貧民たちの怒りも緩和されている。新しい流れを傍観している。
現在、リベットシティはそんな感じだった。
一応の平穏を取り戻している。
……。
……あくまで一応、ではあるが。
「具合はどうかの?」
「もう平気……とはいえないけど、一応は」
Dr.マジソン・リーの私室。
部屋の主であるDr.リーはベッドに横となり、見舞いとして訪れた白衣の老科学者はその顔を覗き込んでいる。
訪れたのはジェファーソン記念館で浄水を任されているDr.ピンカートン。
元々双方共に毛嫌いしているが、能力そのものは認めあっている。少なくともDr.ピンカートンの評価は、リベットシティにおいてはマシな部類、という認識だが。
それでも。
それでも天才を自負するDr.ピンカートンとしては最高の賛辞だった。
さすがに相手はその評価を素直に喜べないでいるが。
「それにしても私が死んでいる間に色々と動いたようね」
「ああ」
Dr.リーはハークネス似のアンドロイドに撃たれ一時心肺停止していた。
「それで、そのハークネス隊長似のアンドロイドは?」
「依然行方不明のようだ」
「そう。謎だらけね」
「じゃな」
ハークネスの顔はDr.ピンカートンが整形した顔。
あのアンドロイドは連邦の関与をほのめかしていたようだが、わざわざキャピタルで整形された顔にしてから派遣するだろうか?
利に叶っていない。
例え何らかの意味があるにしても糸が全く分からない。
「パノンが全ての首謀者だったのかしら」
「さてな。レギュレーターが全て消しちまったからな。状況証拠しかないってわけさ。ところでお前さんのアンドロイドはどうした? ワシが忙しい中わざわざ調整してやったやつ」
「パノンに持っていかれたみたい。目が覚めたらなくなってた」
「ふぅん」
報告ではジプシー村にはアンドロイドの残骸が散乱していた、らしい。
グラートギャングと共倒れになったとBOSは見ている。
「結局Dr.レスコは関係なくて、Dr.アンナ・ホルトが関与してたって本当?」
「総合するとそうだが……」
「何か問題が?」
「あの遺伝子屋のDr.レスコも別件で妙なことをしている節がある。何しろ、この街のFEV管理室に入った形跡があるからな。お前さんの前に。それで、Dr.アンナ・ホルトはどんな人物じゃった?」
「ああ、それを聞きに来たのね」
「ついでに見舞いしとる」
「……相変わらずね」
「それでどんな人物じゃった?」
「ジェファーソン記念館にエンクレイブを引き入れた真意は分からないけど……研究熱心ではあったわ。能力が伴ってなかったけど。でも変ね、彼女がタコマのFEV奪取犯なんでしょ?」
「BOSはそう見ている。それが?」
「スーパーミュータントを従えているとか。そう聞いているわ」
「ああ。それが?」
「単純に人に投与したらスーパーミュータントになるってわけじゃないわ。彼女は専門外のはずよ。私が知らないだけで、実は知識があるのかもだけど、妙な話だとは思う」
「ではスーパーミュータント軍の再編が目的ではないと?」
「そもそも彼女がその考えに至る要因が分からない。誰か別の奴がいるんじゃない? スーパーミュータント軍団の再建を望む、誰かが。それか別の目的があるのかもね」
「やれやれ。解決したようで何も解決していないのかもな」
「かもね」
「それにしてもお前さんが評議長の座を蹴るとはな」
「私は、ただ研究資金が欲しいからアドバイザーとして評議会にいただけ。評議員だけど、興味ないのよ。政治もBOSに丸投げした方が楽だし、現にそういう流れになってる。私は研究に打
ち込むわ。エルダー・リオンズに資金の件はよろしく言っといて。キャピタル・ウェイストランドの食料事情を変える、画期的なプランがあるのよ」
「言っておくよ」
「よろしくね」
「わざわざ送ってくれなくてもよかったのによ」
酒場を出てスプリング・ジャックは照れ臭そうに笑った。
俺は伸びをする。
「気分転換に外に出たかっただけだよ」
「兄貴はツンデレだぜ」
「……気色悪いこと言うな」
「へへへ」
ゴブ&ノヴァの店はメガトンの二階層目にある。
この街は外壁に囲まれているから拡張するとなると上に上に伸びるしかない。今のところは二階層目までしかないが人口がさらに増えたら三階層目が出来るのだろうか。
俺は手すりから街を見下ろす。
ここから門まで何も遮るものはない。
良い景色だ。
まあ、その門自体がノーヴィスのアホが小型核で自爆したことで粉砕されて更に見晴らしがよくなっているわけだが。
「兄貴」
「うん?」
「トロイの兄貴の件は俺らに任せてくれよ」
「ああ。任せたぜ、兄弟」
「おうよ」
がっ。
お互いにゲンコをぶつけ合う。
最強のギャング団創設はもう目の前ってやつだな。
布陣は最強だ。
「じゃあ、兄貴、またな。お前ら行くぞ」
『兄貴失礼しやっす』
スプリング・ジャックと手下5人は俺に一礼して歩き出す。
俺は手を振り、また手すりからの景色を堪能する。
悪くない。
悪くない按配だな、俺の人生。
メガトンを取り巻く、というかキャピタル・ウェイストランドを取り巻く一連の事件の大元も根こそぎに出来たようだしな。まあ、逃げてるマザー・マヤとかいろいろとまだ厄介はあるけどな。
スプリング・ジャックたちはもう見えない。
だが数分後、眼下に現れる。
手すりから手を振る。
向こうもこちらを見上げて手を振り返した。
息がぴったりだぜ。
まさか仲間になるとは思ってなかったぜ。
……。
……ウィルヘルム埠頭の食堂の時点ではただのアホだったけどなー。
まさか参謀格となるとは。
世の中は不思議が一杯だぜ。
「ん?」
何だあいつ。
門の残骸を通り抜けて誰かが走ってくる。
それはいい。
それはいいんだが、真っ黒だ。
視界を凝らす。
真っ黒なのは服装だ。
ライダースーツのようなものを着てる。しかも顔も何かで覆ってる。メトロの奴……ではないな、別のバリエーションがあるのかもだが、少なくともマックスだかマキシー達のような恰好ではない。
俺の視線に気付いたのだろう、スプリング・ジャックたちもその視線の先を見る。
腰にあった二刀の剣を引き抜いたそいつを。
そいつはスプリング・ジャックたちに向かって一直線に向かっていく。
速いっ!
「何だこの野郎……っ!」
スプリング・ジャックが叫ぶ。
それが。
それがスプリング・ジャックたちの最後だった。
剣を持った奴はそのまま通り過ぎ、そして止まった。こちらを見ながら。スプリング・ジャックたちはその場に転がる。
生きているようには見えない。
全員の首が転がっているからだ。
「てめぇっ!」
俺は叫ぶ。
そして同時に9oピストルを2丁引き抜いて、引き金を引く。
何度も。
何度も。
何度も。
だが放たれた弾丸は奴には届かない。
撃った回数分剣を振り回す。
俺には見えないが、たぶんグリン・フィスのように弾丸を切り落としているのだろう。
カチ、カチ。
弾丸が尽きる。
「ボス、どうしたっ!」
「嘘でしょ、あいつは……っ!」
酒場からベンジーとレディ・スコルピオンが飛び出してくる。
アサルトライフルをベンジーが構え、レディ・スコルピオンは中国製ピストルを構えている。接客の手前、さすがにダーツガンは邪魔なので部屋に置いてあるようだ。
二刀をぶら下げた奴はこちらを見て立っている。
それだけ。
それから朗々と喋りかけてくる。
「トロイはどこにいる?」
「知らねぇな」
トロイ?
こいつトロイに用があるのか?
「あの男はディバイドで死ぬはずだった。しかし生きている。それは許されないことだ、ブッチ・デロリア」
「……」
俺の名前も知っている、か。
ボルトの連中が差し向けた刺客ってわけか。そしてトロイの名前も知っているとなるとストレンジャー。
「……ボス、分が悪い。あいつはデス。ストレンジャー最強の男だよ」
レディ・スコルピオンが小声で呟く。
その声には怯えがあった。
デス?
中二病かよ。
「ブッチ・デロリア、人は平等だと思うか?」
「さあな」
「平等ではない。生まれながらにして平等ではない。努力が全て? 努力すれば報われる? かもな。しかし出自というスタートダッシュは否定できない。NCR議員の子にに生まれれば有利
に決まってる。世襲で議員になれるかどうかは別だが、よほどアホでなければなるだろう。地盤も知名度もあるのだからな。平等ではないのだよ」
「そりゃすごい」
周囲も騒ぎ始めている。
市長が家から飛び出してくるのが見えた。続いてアッシュも出てくる。厄介が嫌とか言いながらまだ泊まっていたようだ。
どこからかモニカさんも出てくる、市長とアッシュがデスの背後から、モニカさんは前方を塞ぐ形だ。
俺は銃の弾倉を装填しない。
デスの注意が俺に向いているからだ。銃弾を装填する作業をしたら一気に動き出すかもしれない。レギュレーター組の攻撃の阻害になる可能性もある。
話を合わせるとしよう。
怒りに燃える感情を抑えながら。
「だが死は違う。ランダムではあるが公平だ、平等、誰にでも死は訪れる。予期せぬ時に訪れる。それがたまらなく芸術的だ。そう思わないか? 貧民も金持ちも突発的に死ぬ」
「てめぇが死ね」
「死ね? 僕が? 僕は死を任されている。僕の能力はまさに死神の力。僕こそが神よって遣わされた、死神なのさ」
「中二病に用はねぇよ」
その時、3人のレギュレーターが動いた。
デスは一直線にモニカさんに迫る。
モニカさんは44マグナムを撃つもののデスはそれを切り払いながら肉薄、そして駆け抜ける。そして後ろを見ずに二刀の剣を後ろに投げた。
まるで吸い寄せられるようにその剣は市長とアッシュの胸元に刺さった。
3人同時に倒れる。
嘘だろっ!
ベンジーとレディ・スコルピオンは敵を2階層目から捕捉しようとするものの忽然とデスは姿を消した。
いきなり消えた。
トロイと同じ能力者っ!
ベンジーが叫ぶ。
「あの野郎、あれは中華製ステルスアーマーかっ! ボス、気を付けろ、あいつ透明化してるっ! アンカレッジで遭遇したクリムゾンドラグーン部隊御用達のやつだっ!」
言ってることは分からないがあのスーツで透明化しているようだ。
だがあいつは殺気のセリフで能力とか言ってたからな。
能力者という可能性は捨てきれない。
「きゃあっ!」
「ぐは」
レディ・スコルピオンとベンジーがひっくり返る。
どちらも腹を抑えて蹲っている。
血が噴き出していた。
「ようやく話が出来るね、ブッチ・デロリア」
「……っ!」
突然虚空から輪郭が現れ、デスの姿となる。
手には何も持っていない。
どうやって刃物もないのにベンジーとレディ・スコルピオンの出血に繋がるんだ?
「はあはあ。……あー」
何だこいつ?
息が上がってる。
まあ、あんだけ動けば息も切れるだろうが。
「なかなか面白いね、その2人も、下の3人も。わずかに致命傷ではない。動きがなかなかいい。殺し損なった。まあ、それは別にいい」
「俺に何の用だ」
「死は誰にでも訪れる。望む望まぬは関係ない。災害だと思えばいい。人では避けられないだろう? 死に微笑まれたら、確定的な死が訪れる。それが運命ってやつだ」
「何の用だって言ってるんだよっ!」
「トロイだよ」
「知らねぇよ」
「……聞いてた話と違うな。だけど……まあ、いいか」
鋭い一撃が俺を襲った。
その場に俺は蹲る。
腹に重いのをもらい胃の内容物を吐き出す。
「ごほごほっ!」
「君は殺さないでおくよ。トロイとの接点だし。また来るよ」
「お、俺は……ごほ、殺さないのかよ」
「僕が手を下さなくても君は勝手に死ぬだろ? 何か勘違いしているようだね。まさか自分をヒーローか何かだと思っているのかい? 認識を改めたほうがいい」
「ごほごほっ!」
「人は誰しもが自分という人生の主人公だ。しかし世界の主人公となるとわけが違う。君は自分の人生の主人公であって、世界に通用する主人公ではないのだよ。じゃあ、またね」
デス。その男、最強。